温かな夏の日に訪れた、フランス・ジヴェルニーのモネの庭。これは私にとって、長年憧れ続けたモネの世界を体感する特別な瞬間の記録です。訪れたのは今から10年以上も前のことですが、今年、日本で開催されている「モネ睡蓮のとき」とのご縁を感じ、記念すべMASAKI’S CREWの最初の特集としてこの訪問記をお届けします。

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パリのオランジュリー美術館に展示されているモネの手がけた「睡蓮」。モネが亡くなる直前まで筆を入れていた作品

    クロード・モネ、印象派を代表する巨匠であり、色と光を巧みに操る「光の画家」。50歳でジヴェルニーに居を構えた彼は、自らの手で「水の庭」と呼ばれる睡蓮の池を作り上げました。その水面に揺らめく睡蓮の花々、複雑に変化する緑の色彩は、モネが描き続けた幻想的な世界そのもの。私はどうしても一度あのモネの睡蓮の世界を体験してみたいと思っていました。
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    ジヴェルニーはパリの北西およそ75kmに位置し、ノルマンディー地方の自然に抱かれた小村です。この土地の穏やかな美しさは、モネや他の印象派の画家たちをも魅了してやみませんでした。たとえば、近隣のルーアンには彼が繰り返し描いたノートルダム大聖堂があり、印象派の名作の数々が生まれた土地としても知られています。

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    その日はここちよい夏の日差しが爽やかな日でした。透き通るような青空のもと、バラのアーチをくぐり抜けると、ピンクの漆喰壁とグリーンの鎧戸が映えるモネの家が姿を現しました。家の周りにはチューリップやポピー、バラが咲き乱れ、まるで彼のパレットの中にいるような錯覚を覚えます。ここでモネは自ら庭をデザインし、色鮮やかな「花の庭」と、睡蓮の池が美しく広がる「水の庭」をつくり上げました。モネが移り住んだ当時は並木道の周りにリンゴ畑と野菜畑が広がっていたそうで、この家は果実酒の圧搾所として使われていた建物です。
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モネの家の2階から見下ろす庭園は、さまざまな色彩が織りなす絵画のよう。彼が描いた「光と色」の世界がそのまま広がり、訪れる者を魅了します。



    美しい花が咲く花の庭を愛でながら地下トンネルを抜けていくと、いよいよお目当ての睡蓮に描かれている「水の庭」にたどり着きました。
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モネの庭の象徴的な太鼓橋はフランスでは「日本の橋」として親しまれています。ヤナギやフジ、睡蓮に囲まれたこの橋は、彼の愛した日本文化を象徴するかのように美しく佇んでいます。

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池に浮かぶ睡蓮は静寂の中に凛とした美しさを湛えています。優雅に水面に映り込む姿は、モネが描いた無数の作品の面影をそのまま映し出しているようで、ふと時が止まる感覚に包まれます。彼の筆が描き出す柔らかな光と影のコントラストが、まさに目の前に実体をもって広がっているのです。静かな池にかかる太鼓橋の向こうには、日本のツツジやモミジが配され、どこか懐かしさを感じさせる景色が広がります。モネは浮世絵にも影響を受け、自宅の色使いや庭の配置にその趣が反映されています。ここに漂う空気は、彼が夢見た色と光に包まれて、自然と心が安らぐようです。その影響は庭だけにとどまらず、自宅のインテリアの色彩にも影響を与えているそうです。